Audio Stop 217
Jacques-Louis David
The Emperor Napoleon in His Study at the Tuileries, 1812
West Building, Main Floor — Gallery 56
文字起こし
ジャック=ルイ・ダヴィッド、テュイルリー宮殿の書斎にいる皇帝ナポレオン、1812年
アーロン・ワイル:
この作品で私が感心するのは、ここでは政治的権威が、極めて近代的な姿で示されていることです。私はアーロン・ワイル、フランス絵画部門の学芸員助手です。
ナレーター:
ここでジャック=ルイ・ダヴィッドは、ベストに片手を入れたお気に入りのポーズで書斎に立つ、皇帝ナポレオンを描いています。
アーロン・ワイル:
時計を見ると、今は午前4時13分で、皇帝は徹夜で仕事をしていたようです。ろうそくはほとんど燃え尽き、彼の髪は乱れ、カフスボタンは外れています。執務机の上の大きな巻いた紙から、皇帝がその最も重要な立法上の成果である、「ナポレオン法典」に取り掛かっていたことが分かります。これは、革命後のフランスにおける、初めての一貫した法体系でした。ダヴィッドはここで、執務机から立ち上がったナポレオンが、これから剣を着けて、軍の閲兵に向かうところを描いています。
ナレーター:
机の下に置かれた有名な本は、アレキサンダー大王とユリウス・カエサルの業績録です。
アーロン・ワイル:
それは、ナポレオンの業績がギリシアやローマの英雄と同等か、より優れていることを明白に伝えているのです。
この肖像画では、ほとんど幻覚的リアリズムのような手法で、すべての細部、すべての手触りが丁寧に描かれています。それは、事実を記録した、真実の姿のように見えますが、実はフィクションであり、偽りなのです。彼の一生におけるいくつかの重要な瞬間や物が、この一つの絵の中に凝縮されています。それにより、この作品は、神話の形成に関与しているのです。神話がどのように作られるのか、またナポレオンのような人物の政治的正統性がいかに確保されるのかを、この絵から学びとれるかどうかは、私たちにかかっているのです。