Audio Stop 7
Edward Hopper
Ground Swell, 1939
West Building, Ground Floor — Gallery G6
《大波のうねり》に描かれた青い海、太陽の光を浴びた人物たち、そして大きな波のうねりは作品に穏やかな印象を与えています。しかし細部をよく見ると、最初の印象に疑問を感じるようになります。ブイは、さえぎるもののない海の風景の中で小型のキャットボートの前に立ちはだかっています。それはまだ見ぬ差し迫った危険に対して警鐘を鳴らすものであり、その存在が場面に不吉な雰囲気を与えています。そして、しばしば嵐の前兆とされる青い空に渦を巻く雲が不安な印象を強めています。
Read full audio transcript
SARAH CASH:
非常にシンプルな構図のこの作品には、空と海、ヨット、人物、そしてベルブイが描かれています。
NARRATOR:
ですが、作品を初めに目にした時の、静かで穏やかで美しいという印象とは異なる情景が描かれている可能性があります。アメリカ・イギリス絵画のアソシエイト・キュレーター、セーラ・キャッシュです。
SARAH CASH:
例えば、ヨットに乗っている人たちは一見みな別々で、お互いに関心がないように見えます。彼らの視線はベルブイに集中しており、ベルブイが何らかの危険をもたらすかもしれない[04:48]と、ひどく心配していることがうかがえます。青い空に浮かぶ羽根のような雲は、私たちの目にはただ美しく穏やで楽しげに映りますが、実際はそのような雲は嵐や天候の変化の予兆であることもしばしばです。
NARRATOR:
波も、「大波のうねり」という意味のGround Swell(グラウンド・スウェル)という作品のタイトルのごとくうねっています。何か隠れた意味があるのでしょうか?ホッパーがこの作品を発表した1939年、ハリケーンがニューイングランド地方を襲い、甚大な被害をもたらし数百人の犠牲者を出しました。しかしそれだけではありません。
SARAH CASH:
ホッパーは、この作品を1939年の8月から9月15日の間に描き上げました。ニュースで第2次世界大戦の勃発が報道されていた時期とちょうど重なります。このことから、この作品でベルブイは二重の意味を持っていると大いに考えられます。天候の悪化を考えさせられる一方、第二次世界大戦の到来をそれとなく象徴しているとも考えられるでしょう。